・・そう考えれば、あのフシギな言動に、いちおうの説明はつく。
才能はある、魅力もある、信念はなくもない、理想はなくもない、信仰もなくもない・・のかな?
  
ロレンスは、「軍人」とは呼びきれない。あんなに上司の命令にさからって独断でつっ走るようじゃ、軍人とはとても呼べまい。
かといって「諜報部員」とも呼びきれない。諜報部員てのはもっと、愛国心に燃えてるか、でなければ何にも執着してないか、そのどっちかであるべきだから。アラブを選ぶには英国を、英国を選ぶにはアラブを、愛しすぎてたように見える。
そのくせ、きっすいの英国人ぽかったかというと、そういうわけでもない。世界中どこへ行っても午後のお茶とクリケットを楽しみ、英国流を貫きとおす同僚の眼には、アラビア服を着て、現地人とおなじものを飲み喰いするロレンスは“変り者”と見られてたという。(「身分が低いからあんなことが出来るんだ」と陰口たたかれてたそうだ)
・・いっそ、大学時代の考古学の世界にもどって、「学者」になるか。いや、それをやるには血の気が多すぎ、ヤマっ気が強すぎた。おまけに、有名になりすぎた。
 
ロレンスはアラブから帰って陸軍を除隊後、まったく畑ちがいの空軍に入るが、前歴をマスコミにすっぱぬかれて除隊。その年のうちにまた別の偽名で陸軍(戦車隊)に入隊、そこから空軍に入りなおすというやり方までしてる。そこでやってたことが、ホバークラフトのハシリみたいな、水上飛行艇のエンジニア。
陸軍出身が、空軍で、高速ボートを? う〜ん・・?
ロレンスは、こういう軍内の区分けからさえも、はみ出す。
かように、ありとあらゆるパターンからはみ出すのが、ロレンスである。
 
どう見てもロレンスは、いくさ場では必要だけど、平和になるとヤッカイな存在。いられても困るし、いるほうもつらい、っていうような。
バイクでかっとんで事故死するより、本当はどこかよその国の傭兵にでもなって、戦場での「一兵卒としての死」を望んでたんじゃないか? かれの死は、軍を満期除隊になった、2ヵ月後だった。
おだやかな隠居生活は、さいごまで似合わなかったものとみえる。
 
映画『アラビアのロレンス』は、いまでは史実とはだいぶちがうって言われてる。これは“伝説の英雄”のお伽話として見るべきだろう。脚色だってことは百も承知でも、心地よくだまされてみたくなる。
なにしろ長大だし、いくらかは基礎知識がないとついていけない、説明不足の部分もある。何度見ても、納得しきれない部分も残る。
スケールは巨きいけど、欠点も多い。でも、だからこそ魅力的。映画『アラビアのロレンス』は、ロレンス本人に、よく似ている。
あの映画に魅せられ、「ああいう超大作を撮ってみたい」「CGの力さえ借りれば、オレにだって!」と企てては、力及ばずに終ったらしき歴史大作が多いよね・・とくに、最近。なんでかな?