まず。「TVっ子日記」といいつつ映画のことを書くのは、私はさいきん映画をTVでしか見てないからなんで、あしからず。映画館なんて、年に1回行くかどうか。
 
このまえ『飛べ! フェニックス』という映画を見た。
事故で砂漠に不時着した飛行機の残骸を材料に、生き残った乗客たちがひと回り小さな脱出用飛行機を作り、砂漠からの生還をこころみる、という話。
脱出シーン、灼熱の砂漠の真昼に、金属の翼の上に寝そべってだいじょうぶか? って気もするが、まあいいとして(笑)。
 
この飛行機の機長(ジェームス・スチュアート)は、事故の責任を感じており、誇りたかく、ガンコ者。
たまたま乗客の1人だったグライダー設計者(ハーディー・クリューガー)は、頭はいいが、さいしょ1人だけで脱出用飛行機を作ってるとき、「だれより体を動かしてるから」と、こっそり夜中に自分だけよぶんに飲料水を飲んだりする性格である。(飲み水は飛行機を作って脱出する予定日のギリギリぶんしかない。これがサスペンスを盛り上げる)
この2人はことごとく対立するが、間に立ってなんとかまとめようとする飛行士の役を演じてたのが、リチャード・アッテンボローだった。
 
映画の前半、H・クリューガーはただ「自分は飛行機のデザイナー」としか言わない。そして話の中盤、いよいよ、みんなで力を合わせて脱出用飛行機を作るしかないって話が煮つまってきたところで、ようやく「じつは私はグライダーの設計者で」と明かす。
聞くなりアッテンボロー氏、いきなり大声で笑いはじめる。死ぬか生きるかの瀬戸際で、おもちゃの飛行機か、と。大笑いしながら泣きはじめ、しまいに、おいおい泣き出してしまう。
歌舞伎なら「○○屋!」とかけ声がかかりそうな、一世一代の名演技である。
 
アッテンボロー氏の顔を見た瞬間、「ああ、バートレット!」と思ってしまった・・といってピンとくるなら、私とおなじように、かの名作『大脱走』を愛してる人だろう。
あの映画でのアッテンボロー氏は、脱走計画の首謀者バートレットの役だった。この首謀者を命がけで逃がしてやり、ナチ兵に撃たれて駅の線路の上で死んでゆく部下、アシュレイ・ピットを演じてたのが、『ナポレオン・ソロ』のイリヤこと、デビッド・マッカラム様であった。
 
・・ふと、頭のすみで、思ってしまった。アッテンボロー氏の名演技にうなり、ああ、なんてうまい役者だろう、と思いつつ。
「さすがはマッカラム様が命がけで護ってあげただけのことはある」と。
いや、頭ではちゃんと判ってんのよ。理性では、『大脱走』でたまたまそういう役、そういう立場だっただけじゃないか、と。
でも感情では、アッテンボロー氏がいい演技してると、うれしいんだよ。よかったねマッカラム様、と、どうしてもそう思ってしまうのが止められない。
 
そのむかし、『大脱走』見ていらい、アッテンボロー氏が大嫌いになったマッカラム様ファンがいる、と聞いたとき「をいをい、冷静になれよ。たかが映画じゃね〜か」と思ったもんだったが。
「マッカラム様が命がけで逃がしてあげたのに、けっきょく射殺された→だからアッテンボロー氏はきらいだ」って考えかたと、「→だからアッテンボロー氏がいい演技してるとうれしい」ってのは、考えかたのベクトルこそ逆方向むいてるけど、反応としては、おなじじゃないか?
かくも、映画の生み出す「幻想」ってのは、強烈で、おそろしい。
なんだかつくづくそう思ってしまった・・。