田村高廣、一世一代の名演技『雨乞い庄右衛門』

さて、田村高廣さんといえば!
やはり『鬼平犯科帖/雨乞い庄右衛門』でしょう!
 
もっとも印象的な田村高廣のドラマといえば、迷わずこれを推す。
もっとも印象的な『鬼平』も、これは、5本の指に入る。
 
鬼平の盟友・左馬之介が、旅先でゆきずりに知り合う老人。
どこか思いつめ、ナゾめいたふんいきをもつこの男、じつは老盗賊“雨乞い庄右衛門”。
隠居前、さいごのひと仕事をもくろんでいたのだが・・
 
鬼平はラスト近くにしか出てこない、変則的な作り。
あきらかに高廣さんの、高廣さんによる、高廣さんのための一編。
吉右衛門オヤブンも、左馬之介役の江守徹も、わきに回ってアンサンブル演技に徹してた。
旅の宿で病に伏し、「医者に訊いたろう。余命を教えてくれ」と左馬之介につめよる庄右衛門の、澄んだ横顔。その、眼の光。
 
心の臓を病み、瀕死の老盗賊が、裏切った部下をみずからの手で始末する、さいごの力をふりしぼった殺陣。その悲惨な見事さ。
もとどりが切れて、ざんばら髪になるタイミングの鮮やかさ。
“必殺”シリーズなみに、陰影の濃い照明。
どこからどこまで、渾身の一作だった!
 
何度見ても、殺陣の場面は手に汗握り、泣かずには見られない。
これを20代ではじめて見たとき、あまりの感動に標準録画しといた自分を、私はほめてやりたい。
くり返し見直すたび、齢が進むほどに、老盗賊の心情に近づき、ますます感動する一作。
ただ・・追悼で見るには、つらすぎる幕切れだけどね。
 
おまけ・・
この物語の冒頭で、足踏み式の水車をもくもくと踏んでる百姓役の人は、黒澤明の映画で、拍子木打って「うしみつでござ〜い」と時を告げる夜回り役をやってた人だそうです。
たしかYみうり夕刊・芸能欄で読んだおぼえ有。
(この項・終り)
 
☆さらにおまけ・・私の『鬼平』ベスト5。
上記の理由で『雨乞い庄右衛門』。
文句なし、シリーズ最高傑作!『密偵たちの宴』。
フランキー堺がベテラン落語家のような枯淡の味『盗法秘伝』。
島田正吾日下武史と、鬼平の膝で泣きじゃくる粂八(蟹江敬三)がよすぎる!『血頭の丹兵衛』。
5番め・・夏八木勲ファンだもんで、録さん活躍の『本門寺暮雪』とすべきか。やはり山田五十鈴『むかしの女』か。『大川の隠居』もいいな〜。
この話題はキリないんで、いずれまた。